防水表記「Water Proof」「Water Resistant」について

現在では当たり前のように身近にある「防水時計」ですが、ヴィンテージウォッチの世界では、防水を謳っているモデルは高級品扱いでした。

1950年代、60年代頃の時計の広告では、各メーカーが競うように「Water Proof(防水)」という表現が使われていました。

しかし、ある時を境にその表現が大きく変化いたします。

今回は、「防水時計とは何か」ではなく、「ヴィンテージウォッチにおける防水表記の歴史」についてご紹介させていただきます。


目次

・「Water Proof」とは

・「Water Resistant」とは

・防水時計の誕生と大衆化するまで

・防水時計を提示する国際規格の制定

・防水表示が切り替わる時期について

・時計における防水に関しての補足情報


「Water Proof」とは

腕時計における「Water Proof(ウォーター・プルーフ)」とは、そのケースが機械内部に水が侵入することを防ぐ「防水仕様」である、という意味で使われています。

防水時計(当時は懐中時計)が誕生する1850年代頃より「Water Proof」という名称が使われ始め、1950年代には一般的な言葉として浸透しますが、1972年に国際規格(ISO2281)が制定されたことにより「Water Resistant」に切り替わります。


「Water Resistant」とは

「Water Resistant(ウォーター・レジスタント)」とは、「Water Proof」に代わる形で登場した表記で、「防水」ではなく「耐水」を意味しています。

1972年に国際規格(ISO2281)が制定され、時計の持つ耐水性能をより細かく分類するように定義しました。

国際規格の制定に先立って1970年頃より使用され始めますが、詳細は後述いたします。

【主に使用される表記】

飽日常生活防水(2~3気圧)・・・WATER RESIST、W.R.、3atm、3bar、100ft

日常生活強化防水(5気圧)・・・5atm、5bar、165ft

日常生活強化防水(10~20気圧)・・・10bar、10atm、330ft、20bar、20atm、660ft

空気潜水用防水(100m~200m防水)・・・100m~200m

飽和潜水用防水(200m~1,000m防水)・・・200m〜1000m


防水時計の誕生と大衆化するまで

防水時計の最も古い記録は、1851年にロンドンで開催された万国博覧会にまで遡ります。

この時発表された、「W. Pettit & Co. (W.ペティット社)」の懐中時計こそ、「世界初の防水時計」と言われています。

当時の万国博覧会の公式解説図解カタログによると、

『水を満たしたガラス球の中に吊り下げられた、作動する時計。
本発明の目的は、計時機器やその他の機器を水、海水などから保護することです。』

という説明が書かれていました。

そして、第一次世界大戦時の1915年、アメリカで世界初の防水腕時計「ウォルサム・デポリエ/フィールド&マリン」が誕生します。

チャールズ・L・デポリエが防水時計ケースの開発に着手し、1917年に「ダブルクリンチベゼル」の特許を申請、1919年に防水ねじ込み式リューズの特許を取得したことで、この時計が実現しました。

しかし、この時点ではまだ軍用時計としての製造だったため、一般大衆向けではありませんでした。

そして、1926年にロレックスがオイスターケースを開発したオイスター社を買収し、防水技術の特許を申請。防水性と防塵性を備える世界初の一般向けの防水腕時計「ロレックス・オイスター」を発売しました。

1927年に若いイギリス人秘書のメルセデス・グライツが遠泳でドーバー海峡を横断に成功し、その際、ロレックス・オイスターを使用していたことで、防水技術の高さを世界的に証明することになります。

この時期を皮切りに、防水時計が身近な憧れに変わり、様々なウォッチメーカーやケースメーカーが防水時計を世に送り出す時代が到来しました。

(オメガ、オリス、ローマー、ジャガー・ルクルト、ティトゥス、フェニックス、エテルナ、ロダニア、プロント、ジラール・ペルゴ、エニカ、キャンディード、アンジェラス、ワイラーなどなど、有名無名問わず。)


防水時計を提示する国際規格の制定

「防水」という用語が一般大衆に浸透するにつれ、防水性に対する誇大広告を出すウォッチメーカーも非常に多かったようで、たとえ「Water Proof」を謳っていたとしても、防水試験をしっかりと行っていなかったり、そもそも防水性能が無かった時計も見受けられたとか。

1960年頃になり、誇大広告により被害を受けたユーザーに対応するべく、この問題に対し米国で連邦取引委員会(FTC)が介入し始めます。

そして、1965年より、西ドイツ、スイス、フランス、イギリス、日本の5カ国を中心に、ワーキンググループが組織され、耐水の表示を有する腕時計の耐水性に関する国際規格を制定するための議論が始まりました。

当初、試験方法に水を用いるか、気体を用いるか、また耐水性の許容値をいくらに押さえるかなど、審議は難航しましたが、1972年5月にISO中央事務局所要の手続きを経て、国際規格(ISO2281)として公布されました。

これにより、時計の防水性を保証するという意味での「Water Proof(防水)」表記が禁止され、「Water Resistant(耐水)」が使われるようになりました。

ちなみに、日本語表記としては「Water Resistant/日常生活用防水」と定義されています。

【補足情報】

*FTCとは、アメリカ合衆国における公正な取引を監督・監視する連邦政府の機関「FEDERAL TRADE COMMISSION(連邦取引委員会)」の略称です。
現在は俗に独占禁止当局ともいいます。

*ISOとは、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関「International Organization for Standardization(国際標準化機構)」の略称です。
ISOの主な活動は国際的に通用する規格を制定することであり、ISOが制定した規格をISO規格といいます。

*ISO2281より厳格な、ダイバーズウォッチ用の国際規格/ISO6425も同時期に制定されました。


防水表示が切り替わる時期について

特に分かりやすいのがセイコーです。

国際規格が制定されるより少し前の1970年頃から2年程かけて、全ての製品の防水表記が変更されましたが、おそらく輸出用の時計から始めているため、同じモデルであっても切り替わり時期が異なっています。

例として、ロードマーベル36000は1967年から1978年頃まで製造されていますが、シリアルナンバーが「8xxxxxx」だった場合、1968年製、1978年製どちらとも捉えることができてしまいます。

しかし、1970年頃から防水表記が切り替わっていますので、裏蓋の刻印が「Water Proofであれば1968年製」「Water Resistantであれば1978年製」という判断ができます。

上の写真は「セイコー・ロードマーベル Ref.5740-8000」の裏蓋です。

左が1968年製造で「WATER PROOF」刻印。右が1973年製造で「WATER RESISTANT」刻印。

刻印のデザインは同じですが、防水表記が変化しています。

他にも、6139クロノグラフや150mダイバー2ndモデル(植村ダイバー)など、1970年頃を跨いで製造していたモデルの中には、同型であっても防水表記が異なることも多く存在します。

上の写真は「セイコー・150,ダイバー 植村直己モデル Ref.6105-8110」ですが、文字盤6時位置の防水表記が「WATER 150m PROOF」から「WATER 150M RESIST」に変更されています。


まとめ

「ヴィンテージウォッチは水に弱い」と思われがちですが、1972年以前と現代とでは、防水に関する基準が大きく異なっているため、一概に説明することが実は難しいと言えます。

いずれにしても、ヴィンテージウォッチは50年、60年、もしくはそれ以上の年月が経過している時計がほとんどですので、できるかぎり優しく扱っていただけたらと思います。

ご自身の時計の表記はどうなっていますか?

ぜひ確認してみてください。


時計における防水に関しての補足情報

1981年に、ISO国際規格(ISO2281)の不十分な点をあらためて検討し、日本独自に作成された「JIS規格 B7021(一般用防水携帯時計の種類及び防水性能)」が制定されます。

さらに、1984年7月には、ISO国際規格(ISO2281)をより充実させるため、このJIS規格 B7021の内容をほぼ採り上げる形で改正されることになり現在に至ります。

【参考関連リンク】

▼国際規格ISO2281第2版 : 防水ウオッチについて

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tokeieafj/112/0/112_KJ00001680221/_pdf/-char/ja

▼JIS B7021:2013 一般用防水携帯時計-種類及び防水性能

https://kikakurui.com/b7/B7021-2013-01.html


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