オーバーホール
(分解掃除・OH)
とは

こんにちは。

スイートロード川崎店 副店長の石井です。

皆さん、「機械式時計にはオーバーホールが必要」といった話を聞いたことがあるかと思いますが、
具体的には「オーバーホールって何をやっているのか、よくわからない」という方も多いかと思います。

そこで、ここでは「オーバーホール(OH)」について、ご説明したいと思います。


目次

オーバーホールとは

オーバーホールと修理の違い

オーバーホールの費用について

ヴィンテージウォッチ専門店のオーバーホール

時計メーカーのオーバーホール

オーバーホールの流れ

オーバーホールのお預かり期間について

オーバーホール後の保証について


オーバーホール(OH)とは

機械式時計は、定期的なメンテナンス(オーバーホール/Overhaul/OH)が必須です。

オーバーホールとは、「分解・洗浄・再組み立て」のことで、機械(ムーブメント)を部品単位まで「分解」した上で、汚れや古い潤滑油等を「洗浄」し、新たに注油しながら「組み上げて」、精度を調整する作業のこと。

オーバーホール自体は、機械式時計に限らず、「自動車」や「飛行機のエンジン」「工場の生産設備」など、さまざまな機械において行われています。

機械式時計は、金属製のパーツで構成されており、耐久性が高いのが特徴です。

それ故、1960年代、70年代に製造された50年〜60年前の時計が、現在でも実用できているわけです。

一方、安価なクオーツ式時計などは、プラスチックパーツ等を多用しており、耐久性の面では劣ります。

しかし、機械式時計が「耐久性が高い」とはいえ、それは、定期的なメンテナンス(オーバーホール)を行なってのこと。

機械式時計は、内部で金属製のパーツが稼働しているので、歯車などには摩擦を抑えるためにオイル(潤滑油)が使われています。

そのオイルが4〜5年で劣化してくるため、「4〜5年に一度、オーバーホールが必要になる」わけです。

自動車でいう「定期点検」や「車検(自動車検査登録制度)」に当たるものと考えるとわかりやすいかもしれません。


オーバーホールと修理の違い

時計でいう「オーバーホール」とは、定期的なメンテナンスのことを指します。

前回のオーバーホールから一定時間が経過している時計は、内部のオイルが劣化していたり、粘性が変わっている場合があるため、不具合等が見られない場合でも、時計を継続的に使用する場合はオーバーホールが必要になります。

一方、「修理」とは、何らかの不具合の症状が見られ、それに対する修理作業のことを指します。

ただし、時計はいつくものパーツで構成されているため、不具合の原因が1箇所とは限らない場合も多々あります。

その場合は、結果として「オーバーホール」が必要となる場合もあります。


オーバーホールの費用について

アンティーク、ヴィンテージの機械式時計のオーバーホールというと、とても費用がかかるイメージがあるかと思いますが、決してそのようなことはありません。

もちろん、ブランドや時計の仕様によって費用は変わりますが、スイートロードの場合は、例えば、ロレックスやオメガ等の3針(長針・短針・秒針)の自動巻で約3万円〜、クロノグラフで約5万円〜となっています。

使用年数から考えると、年間1万円程度のコスト負担ですので、想像よりも高くはないと感じていただけるのではないでしょうか。

なお、現在、時計メーカーでオーバーホールを依頼すると、おおよそ、スイートロードの倍の費用が必要になります。

もちろん、メーカーの修理保証など特典もあるので、一概に費用面だけでは比較できませんが、ヴィンテージ時計のメーカーでのオーバーホールに関しては、あまりオススメできません。

なぜなら、「ヴィンテージウォッチ専門店」と「メーカー」とでは、ヴィンテージウォッチのオーバーホールに対する考え方(スタンス)が異なるからです。


ヴィンテージウォッチ専門店のオーバーホール

ヴィンテージウォッチ専門店では、「まだ使用できるパーツはできる限り活かしながら」オーバーホールを行います。

その理由は、もちろん古いパーツの代替品が簡単に入手できないことも理由の一つですが、内部の機械においても、できる限り、製造当時のパーツを使用してオリジナル性を維持していきたいという考え方があるからです。

交換パーツが、容易に手に入るのであれば、交換してしまえば話は済むのですが、入手が困難な場合には、不具合パーツ自体を修理した上で、使うことも多々あります。

ヴィンテージウォッチの場合、製造から50年、60年経過しているものも多く、交換パーツを入手するのが難しい場合もあります。

当時のパーツを使用しながらも、現代においても時計として稼働しているということが、ヴィンテージウォッチの魅力だからです。

そのため、オーバーホール完了後でも、パーツの経年による不具合が出る場合があることは、理解しておかなくてはなりません。


時計メーカーのオーバーホール

一方、メーカーでは、基本的に「新品時の状態にできる限り戻す」という考え方で、オーバーホールを行います。

そのため、例えば、文字盤や針の夜光が光らない場合には、時計としての時間を示すという機能には問題がなくても、「文字盤」や「針」の交換が必須になる場合があります。

また、メーカーでのオーバーホールの場合、基本的に不具合パーツがあった場合、パーツ自体を新品パーツと交換する形でオーバーホールを行います。

それ故、ヴィンテージウォッチのような製造から30年以上も経っているモデルの場合、メーカーによっては交換用パーツの在庫がないため、オーバーホール自体を断られることもしばしばあります。

一見すると、メーカーでのメンテナンスが、最善で安心な印象がありますが、ことヴィンテージウォッチにおいては、必ずしもそうとは限りません。

また、メーカーにメンテナンスを出したがゆえに、パーツが交換されてしまって、ヴィンテージウォッチとしての価値を毀損してしまうケースもあります。

ヴィンテージウォッチにおいては、どこにメンテナンスを依頼するかも重要なポイントです。


オーバーホールの流れ

ここでは、オーバーホールの流れについて、ご説明します。

①受付

スイートロードでは、店頭ではもちろん、郵送でもオーバーホールの受付を行っております。

ご依頼の時計を拝見させていただき、現状の状態(稼働チェック、外装チェック)の確認した上で、お客様からのご要望をお伺いして、オーバーホールの受付をいたします。

オーバーホールの際に、合わせて依頼したいこと(例えば、風防交換など)がありましたら、この時点でご相談ください。

②お見積もり

お預かりした時計で、現状、不動のものに関しては、改めて技術者が内部を確認し、お見積りをお出しいたします。

お見積りが出るまで、約2~3週間ほどお時間を頂戴いたします。

なお、お見積りをお出しする際、すべてを分解してお見積りをお出ししているわけではありません。

そのため、オーバーホール作業中に追加で、パーツ交換等が必要になり、お見積り金額が変更になる場合がございます。

その際には改めて、お客様にご連絡し、ご了解をいただいた上で、作業を進めさせていただきます。

お見積りに関しては「無料」にてお出ししております。

ただし、メーカー等での見積もりが必要な場合、メーカーによっては「見積もりキャンセル料」が発生する場合がございます。

その点は予めご理解、ご了承ください。

③オーバーホール作業

お客様からお見積り金額にご了解をいただいた後、いよいよオーバーホール作業(分解・洗浄・組み立て)を進めます。

・分解

お預かりした時計は、ブレス、ケース、針、文字盤も含め、内部パーツもバラバラに分解します。

(一部モデルにおいては、ケースの分解や洗浄が構造上、不可能なできないものもございます。)

・洗浄

分解したパーツは、各種、専用の専用の超音波洗浄機や洗浄液を使って、隅々まで洗浄していきます。

・組み立て

洗浄が済んだパーツは、各パーツに適したオイルやグリスを注油しながら、組み立て、時計の形に戻していきます。

④作動チェック・稼働チェック

組み立てが完了した時計は、技術者により、各作動チェックを行ったうえで、稼働チェックを行います。

・作動チェック

組み上がった時計が、きちんと作動するかチェックします。

具体的には、手巻きでゼンマイが巻き上がるか、竜頭操作ができるか、時刻合わせ(針回し)ができるか、日付変更のタイミングがズレていないか、日付のクイックチェンジ(早送り)ができるか、ストップウォッチは稼働するか等、各時計ごとに作動チェックを行います。

・ワインダーチェック

作動チェックの後、ワインダーという擬似的に腕に着用した状態を再現する機械に時計を装着し、自動巻の巻き上げ、姿勢差、稼働チェック等を行います。

なお、手巻きの時計もゼンマイを巻き止まりまで目一杯巻いた状態で同様のチェックを行います。

・平置きチェック

ワインダーチェックが済んだ時計は、次に「平置きチェック」を行います。

時計の文字盤が上に向く状態で、時間の遅れがないか、針当たりしないか、持続時間に問題がないか、稼働チェックを行います。

なお、年式が古いモデルなど、場合によっては、時計を養生した上で、当社スタッフの腕に実際に着用させていただいた上で、姿勢差、ゼンマイの巻き上がり状況、持続時間の確認等を行う場合もあります。

⑤最終チェック

メンテナンスを担当した技術者以外の目でもチェックを行います。

針がズレていないか、日付の変わるタイミングがズレていないか、文字盤内にゴミ等が入っていないか、竜頭の操作に違和感がないか、竜頭の手巻きの感触に違和感がないか、ベルトやブレスレットに不具合はないか等、お客様目線で、最終的なチェックを行っています。

⑥お引渡し

最終チェックが完了した時計から随時、お客様に完了のご連絡を差し上げます。

完了後は、「店頭お引渡し」もしくは「郵送お引渡し」にて時計をご返却させていただきます。

なお、お客様のご都合に合わせて、お引渡し店舗(川崎店 or 銀座店)を変更することも可能です。


オーバーホールのお預かり期間について

オーバーホールでお預かりした場合、一般的な3針の腕時計で「約2ヶ月〜」、クロノグラフ等の複雑な腕時計で「約3ヶ月〜」のお時間を頂戴しております。

なお、お預かりする時期により多少お時間が前後する場合もございます。

お陰様で数多くのオーバーホールや修理のご依頼を頂戴しております。

受付順に随時、作業を進めておりますので、作業着手までお時間がかかっておりますが、何卒、ご理解いただきますようお願いいたします。


オーバーホール後の保証について

オーバーホール後のメンテナンス保証期間は、「ご返却日から1年間」となります。

保証期間内の時計については、自然故障の範囲内であれば無償にて、再修理をさせていただきます。

なお、保証期間内であっても、時計の性質上、 下記事項に該当した場合は保証対象外 となります。

・衝撃により機械外部及び内部の破損、傷

・部品の破損や紛失

・水分や湿気等が原因による機械の不良

・金属疲労によるパーツ破損 (天芯折れ、巻き芯折れなど)

・当店以外での修理や改造が行われた商品

・修理明細書、又は購入の日付が確認できない場合

ヴィンテージ時計は、オーバーホールが完了しても、発売当時の新品の状態に戻ったわけではありません。「水」「磁気」「衝撃」には十分ご注意ください。


まとめ

機械式時計は、このように定期的なメンテナンスを行うことで、1960年代、70年代の時計でも今なお、時計としての機能を大きく損なうことなく、使うことができます。

大量生産の工業製品として、50年、60年前のものを現在もなお、使用できるものは、腕時計や一部の高級カメラぐらいではないでしょうか?

SDGsと騒がれている昨今、お気に入りのヴィンテージ、アンティークの時計を手入れをしながら使い続けるのは時勢的にも合っていると思います。

少しでも、時計のオーバーホール、メンテナンスで気になることがありましたら、スイートロードまでお気軽にご相談ください。