グランドセイコーVFAとは
今回は、日本を代表する超高精度機械式腕時計「グランドセイコーVFA」についてご説明します。
目次
グランドセイコーVFAとは
グランドセイコーと言えば、セイコーのフラッグシップモデルであり、現在もなお、日本を代表する腕時計であり、また世界中で多くのファンがいる時計です。
そんな「グランドセイコー」ですが、誕生したのは1960年12月18日。
終戦から15年、まさに日本が世界に向けて復興した姿を示そうとしていた怒涛の時代の中で誕生しました。
スイス製の腕時計こそが、「高級腕時計の代名詞」とされていた時代の中、それまで培ってきた精工舎(SEIKO)の時計技術の粋を結集して「世界に挑戦する国産最高級の腕時計をつくる」という志のもと、グランドセイコーは開発されたのです。
「初代グランドセイコー」は、国産では初めてスイス・クロノメーター検査基準優秀級規格と同等の社内検定を行い、それに合格した時計が「歩度証明書付き」で発売されたのは、皆さんご承知のとおりです。
そして、まさに、この「グランドセイコー」というブランドの集大成こそが1969年に初めて発売された「VFA」なのです。
・初代グランドセイコー(1960年)は、「5つの姿勢で平均日差が-3秒から+12秒」というスイス・クロノメーター基準を達成。
・1966年、セイコーは自社独自の認定基準「グランドセイコー(GS)規格」を導入し、「平均日差が-3秒から+5秒」という基準を達成。(ちなみに、当時、スイス・クロノメーターの規格は、「平均日差が−1秒から+10秒」だったそうです)
さらに、この「グランドセイコー(GS)規格」のさらに上を行く、高度なクロノメーター性能を定義する規格がセイコーには2つありました。
1つは、「GSスペシャル規格」で、「平均日差が-3秒から+3秒」というもの。
そして、残りのもう1つの規格が「GS Very Fine Adjusted(V.F.A.)規格」で、「平均日差が-2秒から+2秒」でした。
さらに、このVFA規格の時計は、購入後2年間は「月差1分以内」の精度が保証された特別なものでした。
このように、究極の精度を追求するグランドセイコーの中でも、特出した超高精度を追い求めた結果、誕生したのが「VFA(Very Fine Adjusted/特別調整品)」なのです。
「VFA」は、極めて厳格な精度規格と品質管理のもとに、特に選ばれた専門の技能者が高度な技術に裏づけられながら入念な組立・調整を行い、最高精度を達成した最上級モデルなのです。
VFAの主要モデル
ここでは、主だったVFAモデルについて、紹介していきます。
61GS VFA/銀パラ(Ref.6185-8010/Cal.6185A)
VFAの中でもフラッグシップモデルであり、初期(1968年12月)にしか生産されていない非常に珍しく、生産数の少ないモデルです。
ちなみに、VFAといっていますが、文字盤に「VFA」の表示がないことも特徴です。
ケース素材に「銀パラジウム合金(PALLADIUM400/SILVER300)」が使用されており、通称「銀パラ」の愛称で呼ばれています。
最大の特徴は、ケース側面に施された槌目(つちめ)仕上げ。
金槌を打ち付けたような模様が施されています。
また、ラグもベルトの付け根が見えない「カバードラグ」仕様になっています。
銀特有の独特な質感が印象的です。
61GS VFA(Ref.6185-8021/Cal.6185B)
1970年中頃から1971年中頃まで製造されたモデルで、VFAの中では、比較的見かけるモデルです。
超立体的なインデックス、内側に入ったミニッツ表記が特徴的で、その分、時分針・秒針が短く、VFAと一目でわかるデザインです。
針の仕様、文字盤の表記の仕方にいくつかバリエーションがあります。
また、この61GS VFA(Ref.6185-8021)の前身もモデル(Ref.6185-8020/Cal.6185A)には、インデックスが低く、ミニッツ表記が外周に入った文字盤仕様のモデルも存在します。
61GS VFA(Ref.6185-7000/Cal.6185B)
VFAの中で唯一の金無垢(18KYG)モデル。
絹目仕上げのシャンパンダイヤルで、高級感、特別感がより一層増しています。
61GS VFA(Ref.6186-8000-G/Cal.6186B)
VFAの中で、唯一のデイデイト表示モデル。
VFAの中では、先の「Ref.6185-8021」と同じく、比較的見かけるモデル。
1972年中頃〜1974年初頭まで製造されており、VFAシリーズはこのモデルが最終モデルと思われます。
画像の個体は、販売当時の純正BOXやタグも残っており、当時11万円の定価設定だったことがわかります。
また、タグ裏の表示にある「ハードレックス」とは、無機ガラスに特殊強化処理を施したガラスのことで、ガラス風防を側面から見ると黒っぽく見えるのが特徴です。
45GS VFA(Ref.4580-7000/Cal.4580)
第二精工舎(亀戸)が製造した最初のVFA。
セイコースタイルを彷彿させるケースデザインは採用されておらず、独自のケースデザインとなっています。
1969年~1970年にスイスのニューシャンテル天文台クロノメーター検定で合格したムーブメントの「Cal.4580」を搭載した手巻きモデルです。
ちなみに、実際に合格したムーブメントは153個のみで、これらのムーブメントは、今回紹介した「45GS VFA(Ref.4580-7000)」と「45GS/天文台クロノメーター(Ref.4520-8020)」に搭載され、当時、それぞれ、定価10万円、18万円で販売されました。
45GS/天文台クロノメーター(Ref.4520-8020)
19GS VFA(Ref.1984-3000/Cal.1984)
VFAシリーズの中で、唯一の女性用モデルです。
男性用よりも小型の女性用モデルで超高精度を実現するためには多くの課題のクリアが必要だったことが容易に想像できます。
製造時期も極限られた期間であり、現存するものはかなり稀少です。
まとめ
機械式腕時計の最高峰の精度を誇るVFAが初めて世間に登場した1969年。
セイコーはその年の終わりに、後にVFA(ひいては機械式腕時計)の牙城を崩すことになるエポックメイキングな時計を発表します。
そう、1969年12月25日に発売された「セイコー クオーツ アストロン/35SQ」です。
クオーツ時計の精度は「月差−5秒〜+5秒」という驚異的なもの。
「究極の精度を追求する」というグランドセイコーとしての使命はある意味、この時計が誕生したことで、全うしたのかもしれません。
1970年代半ば、記述の通り、最終モデルと思われる「6186VFA」の定価が11万円のとき、併売されていた最新式「クオーツVFA」は、定価9万円半ばから14万円ほどで販売されていました。
1970年代、現代よりも明るい未来を思い描いていた人々にとっては、同程度の金額を払うのであれば、時代の最先端で精度も圧倒的に優位な「クオーツVFA」を手にすることは、「最善で最良の選択」であるのは間違いありません。
その後、1970年代半ばにはグランドセイコーの歴史は一度、幕を下ろします。(1988年に復活しますが)
1960年から始まったグランドセイコーも時代に翻弄され、約15年ほどでその使命を全うしたわけです。
しかし、現代からみれば、その歴史自体もグランドセイコーの魅力であり、多くの人々が今なお、惹かれ続けているのかもしれません。
今となっては、「往年の銘車」を手に入れるように、「往年のVFA」を手に入れることは時計好きにとっての「アガリ」、最終目標といっても過言ではないでしょう。