高級時計メーカー「IWC」とは

スイス時計ブランドの中でも、技術力の高さと独自の歴史を誇る「IWC(International Watch Company)」。
今回は、そんなIWCの歴史や代表的なヴィンテージモデルを掘り下げていきます。
目次
IWCとは
IWCは、他のスイスブランドとは異なり、アメリカ人時計技師フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズによって創業されました。

IWCがスイスの時計ブランドでありながら、英語の社名にしているのは、アメリカ市場向けに高品質な懐中時計を製造しようと考えていた創業者の思惑によるものです。
IWCは、スイスが誇る優秀な時計師の技と、アメリカの最新の製造技術、近隣にあるライン川の水力発電を利用し、最高品質のポケットウォッチ・ムーブメントの製作を可能にしました。
ジョーンズが米国に帰国した後は、スイス・シャフハウゼンの実業家であったラウシェンバッハ家がIWCを受け継ぎました。

IWCは、初期の頃は、デジタル表示式「パルウェーバー」システムを搭載したポケットウォッチと、男性向け、女性向けの腕時計を製造していました。

その後は、長い歴史の中で、パイロットウォッチやエンジニア向けの高耐磁時計など、革新的なモデルを数多く世に送り出していきました。
IWCは常に最高品質の時計を提供し続けています。
スイス公認の厳しい「クロノメーター」規格には参加せず、さらに厳しい自社規格を設けているほどです。
IWCの歴史
IWCは、既述の通り、1868年、アメリカ人時計技師フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズによってスイスのシャフハウゼンで創業されました。
ジョーンズは、アメリカの工業的な大量生産技術をスイスの高品質な時計製造に導入することを目的としていました。
当時、スイスの時計産業の中心地はジュネーブやラ・ショー=ド=フォンでしたが、シャフハウゼンはドイツ国境に近く、ライン川の水力発電を利用できることが強みでした。

ライン河畔に、現在の IWC本社でもある新社屋を建設。
余談ですが、IWCが豪華な装飾を用いない合理的なデザインを好むのは、ドイツ語圏のシャフハウゼンを拠点としているためでしょう。
20世紀に入ると、IWCは軍用時計や耐磁時計の開発に力を入れ始め、特に第二次世界大戦中には英国空軍向けのパイロットウォッチ「マークXI」を製造しました。
このモデルは、高精度かつ耐久性に優れた軍用時計として高く評価されました。

戦後は、ぺラトン式自動巻機構や防水時計「アクアタイマー」、ドイツ連邦海軍・特殊部隊向けの「オーシャン2000」など、革新的なモデルを発表しました。
さらに1970年代にはクォーツショックに直面しながらも、機械式時計の技術を磨き続け、現在では高級時計ブランドとしての地位を確立しています。
IWCの歴史年表
1868年 | アメリカ人時計技師のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズがスイス・シャフハウゼンに創業。 |
1880年 | 創業者の帰国にともない、スイス人・ヨハネス・ラウシェンバッハ・フォーゲルが会社を買収。 |
1881年 | 息子のヨハネス・ラウシェンバッハ・シェンクがIWCの事業を継承。 |
1915年 | IWC初の腕時計専用ムーブメント、秒針のない「cal.75」 と、スモールセコンドを備えた「cal.76」を開発。 |
1931年 | 新設計のトノー型ムーブメント「cal.87」を搭載したエレガントなレクタンギュラー(角形)の時計を製作。 |
1936年 | IWC初の「スペシャル・パイロット・ウォッチ」を発表。離陸時刻をセットするトライアングル・ポインター付き回転ベゼルと、耐磁性脱進機を装備。 |
1939年 | 「ポルトギーゼ」が誕生。2人のポルトガル商人が高精度のポケットウォッチ・ムーブメントを搭載した大型の腕時計を注文したのが始まりであった。 |
1940年 | 需要に応え、センターセコンドを備えた「ビッグ・パイロット・ウォッチ 52 T. S. C.」を開発。 |
1944年 | 英国軍のために開発された新モデル・初代「W. W. W.」が登場。裏蓋に「WATCH、WRIST、WATERPROOF」の頭文字をとった「W. W. W.」の文字が刻印され、英国軍の証である矢のマーク「ブロードアロー」が記された。同年。1898年生まれのアルバート・ペラトンが、IWC技術責任者に就任(1944〜1966年までIWCに在籍) |
1946年 | アルバート・ペラトン設計による初のムーブメント、センターセコンドを備える超高精度の「cal.89」 が登場。 |
1948年 | 「cal.89」を搭載し、ケース内に高い耐磁性を持つ軟鉄製インナーケースを組み込んだ「パイロット・ウォッチ・マーク11」を発表。 |
1950年 | アルバート・ペラトンが、IWC初の自動巻き機構を搭載する「cal.85」を設計。従来の切り替えギアに代わる画期的な爪レバー式自動巻き機構は、IWC の独自開発として特許を取得。 |
1955年 | ハンス・エルンスト・ホムバーガーが IWC 最後の個人オーナーとなる。自動巻き機構を搭載した「インヂュニア」を発表。 |
1959年 | IWC初、女性用の自動巻きムーブメント「cal.44」を開発。 |
1967年 | 「アクアタイマー」の登場により、IWC ダイバーズ・ウォッチの成功の歴史が幕開け。プロダイバーの使用にも耐える、史上初、20気圧の防水機能を装備。バーゼル時計見本市にて「ヨットクラブ・オートマティック」を発表。 |
1969年 | IWC も開発に参加したクォーツ・ムーブメント「ベータ21」の登場。クォーツ制御による腕時計用キャリバー(周波数 8192HZ)は時計製造に革命をもたらし、IWC のコレクションでは「ダ・ヴィンチ」に初採用。 |
1976年 | デザイナーのジェラルド・ジェンタ(1931~2011)による新デザインで、「インジュニア」がモデルチェンジ。モデルチェンジにより「インヂュニア」は技術者向けという枠を越え、トレンドに敏感な時計愛好家からも支持を集める。 |
1977年 | カレンダーとムーンフェイズ表示を備える初のポケットウォッチ用ムーブメント「cal.9721」を発表し、複雑機構の自社開発に着手。 |
1978年 | デザイナー、F.A. ポルシェ(フェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ/1935〜2012)の協力を得て、コンパスを内蔵した初の腕時計を発表。この年、ドイツの計器メーカー「VDO アドルフ・シンドリング株式会社」が IWC の事業を引き継ぐ。 |
1980年 | F.A. ポルシェがデザインを手掛けた世界初のチタニウム製ケースのクロノグラフを製作。航空宇宙をはじめとする先端技術分野との交流を通し、IWC はチタニウムの加工における専門的知識や技術を習得。 |
1982年 | 200気圧防水を実現した頑強なチタニウム製ダイバーズ・ウォッチ「オーシャン 2000」を発表。 |
1986年 | 傷が付きにくく、実質的に壊れないセラミック、酸化ジルコニウムを新ケース素材として使用開始。 |
1994年 | 伝説のパイロット・ウォッチ「マーク11」の伝統を受け継ぐ「パイロット・ウォッチ・マーク XII」を発表。 |
2000年 | IWC がリシュモン・グループに参画。 |
代表的なモデル一覧
IWCのヴィンテージモデルには、スタンダードなものから特殊な機構を持つものまで幅広いバリエーションがあります。
ここでは、代表的なモデルを紹介します。
スタンダードモデル
IWCのスタンダートモデルには、ペットネーム(モデル名)を持たいないモデルや、リファレンス番号(型番)がないモデルが多数存在します。
ここでは、搭載ムーブメント毎に、代表的なモデルを紹介します。
Cal.75/Cal.76(手巻き)

1915年に登場したIWC初の腕時計専用ムーブメント。
秒針を持たないCal.75 と、スモールセコンドを備えたCal.76が開発されました。
Cal.87(角型 手巻き)

1931年に登場した角型手巻きムーブメント。
当時流行したエレガントなレクタンギュラーモデルに搭載されました。
Cal.88/Cal.89(手巻き)

1946年に登場した、当時のIWC技術責任者アルバート・ペラトン設計による初のムーブメント。
センターセコンドを備えた超高精度ムーブメントとして、現在でも評価され続けているIWCが誇る名機です。
Cal.85系前期/Cal.852系(自動巻)

1950年に登場したアルバート・ペラトン設計によるIWC初の自動巻ムーブメント。
従来の切り替えギアに代わる、画期的な爪レバー式自動巻機構は、IWCの独自開発として特許を取得し、現在では「ぺラトン式自動巻」と呼ばれています。
Cal.85系中期/Cal.853系(寄り目)

ぺラトン式自動巻の中期にあたるムーブメント。
デイト付きモデルは、デイト窓が文字盤中央に寄った特徴的な見た目から「寄り目デイト」と呼ばれています。
Cal.85系後期/8541系(自動巻)

ぺラトン式自動巻ムーブメントの最後期にあたるムーブメント。
ムーブメント本体の薄型化や、日付早送り機能、手巻き機能、 ハック機能の搭載など、純粋なスペックアップが図られたぺラトンムーブメントの完成形と言えるモデルです。
Cal.44(レディース自動巻)

1959年に登場した、IWC初の女性用自動巻ムーブメント。
通称「ミニぺラトン」と呼ばれています。
IWC表記の変遷
時計の文字盤における、IWCの表記の変遷は以下の通りです。
・筆記体ロゴ
筆記体で「International Watch Co」と明記され、その下にブロック体&斜体で「SCHAFFHAUSEN」と表記。

・併記ロゴ
1967年頃から上記の筆記体ロゴの上に、「IWC」表記のロゴが併記されるようになる。

・IWCロゴ
1990年代頃から、筆記体の表記がなくなり「IWC」表記のロゴと、その下にブロック体で「SCHAFFHAUSEN」と表記。

なお、1940年代の角型(レクタンギュラー)の一部には、俗に「キャッツアイ」と呼ばれるロゴマークが入るもの見られます。

ヨットクラブ

高級スポーツウォッチの先駆け
1967年に登場した「ヨットクラブ」は、スポーツウォッチでありながらエレガントなデザインを兼ね備えたモデルです。
防水性能に優れ、かつ耐衝撃性の高いムーブメントを搭載し、ヨットやマリンスポーツを楽しむ人々向けに発売されました。
ぺラトン式自動巻ムーブメントを搭載

ヨットクラブには、IWC独自のぺラトン式自動巻ムーブメントが搭載され、高い巻き上げ効率と耐久性を実現し、日常使いはもちろん、スポーツシーンでも信頼できる時計となりました。
インジュニア

高耐磁時計のパイオニア
1955年に誕生した「インジュニア」(Ref.666)は、高耐磁性能を備えた時計として登場しました。
「インジュニア」とはドイツ語で、技術者(エンジニア)を意味し、その名の通り、科学者や技術者向けの時計として開発され、強力な磁場の影響を受けにくい構造が特徴です。

1948年に誕生したパイロットウォッチ「マーク11」から流用した軟鉄製インナーケース構造が採用され、当時としては驚異的な80000A/mもの耐磁性を備えていました。
1967年には、2ndモデルにあたる「Ref.866」を発表するものの、特殊モデルゆえに、セールス的にはあまり芳しくなかったようです。
ジェラルド・ジェンタのデザイン
1976年には、天才デザイナー:ジェラルド・ジェンタによる「インジュニアSL」(Ref.1832)が登場します。

しかしながら、ジェンタデザインでフルモデルチェンジを果たすも、1000本にも満たない生産数で1980年代早々に販売が打ち切られました。
高級感の演出とケースの大型化により販売価格が高価になってしまったことや、時代的にクォーツ時計が主流となったことが原因と思われます。
現在では、ジェンタデザインという点や、スポーティーでありながら洗練されたデザインが評価され、人気の高いモデルとなっています。
1990年代に入ると、ブレス一体型のケース形状やベゼルの5つのピン穴など「インヂュニア SL」のデザインをそのままに、サイズを34mm径に変更した小ぶりでスリム(ケース厚10mm)なサイズのインヂュニア(Ref.3521)が登場しました。

マークシリーズ

英国空軍御用達のパイロットウォッチ「マーク11」
「マーク11」は1948年に英国空軍向けに開発されました。
手巻きムーブメント「cal.89」を搭載し、ケース内に高い耐磁性を持つ軟鉄製インナーケースを組み込んだこの時計は、視認性の高さ、耐久性、耐磁性を兼ね備えた軍用時計で、パイロットの信頼を得ました。
自動巻へ進化した「マーク12」

1994年、IWC創立125周年を記念して、かつての「マーク11」のデザインを踏襲する形で「マーク12」が誕生します。
「マーク12」では、自動巻ムーブメントが搭載され、日常使用に適した仕様に改良されました。
ミリタリーウォッチの伝統を受け継ぎながら、より実用的な時計へと進化しました。
アラビア数字が配されたスポーティなデザインから、一躍、人気の高いモデルとなりました。
より現代的にブラッシュアップされた後継機「マーク15」

2000年に登場した、マークシリーズ3代目となる「マーク15」。
基本デザインは、マークシリーズの伝統的なディティールを引き継ぎ、ケースサイズが36mmから38mmへと変わり大型化しています。
アクアタイマー

ダイバーズウォッチの誕生
1967年に登場した「アクアタイマー」(Ref.R812AD)は、IWC初の本格的なダイバーズウォッチです。
回転式のインナーベゼルを搭載し、2時位置の竜頭でベゼルを操作します。
1968年には、防水機能を300m防水にアップさせた2ndモデル(Ref.816)を発表しました。
その後、IWCのダイバーズウォッチは「オーシャン2000」へと受け継がれましたが、1998年、防水機能を2000mまで高めた第4世代モデル「GST アクアタイマー」を発表します。
このモデルから、2ndモデルまで継承された回転式インナーベゼルは、アウターベゼル仕様に変更されました。

左:アクアタイマー2ndモデル(Ref.816)/右:GSTアクアタイマー
オーシャン2000

2000m防水のチタン製ダイバーズウォッチ
1982年に発表された「オーシャン2000」は、チタン製ケースを採用し、2000mもの防水性能を実現しました。
ドイツ連邦海軍(BUND)向けにポルシェがデザインをした軍用時計「オーシャン2000」をベースにしており、文字盤のデザインや潜水可能深度等が一般販売モデル(民生品)は異なります。
ポートフィノ

IWCのエレガントウォッチ
1984年に登場した「ポートフィノ」は、クラシックでエレガントなデザインが特徴のドレスウォッチです。
モデル名の「ポートフィノ」は、イタリアのリグーニア海岸に面する高級リゾート「Portofino」(ポルトフィーノ)に由来します。
シンプルながら洗練されたスタイルで、着用シーンを選ばない、ベーシックな時計として多くのファンを魅了し続けています。
まとめ
IWCのヴィンテージモデルには、それぞれの時代の技術革新が詰め込まれています。
他の時計ブランドにはない質実剛健を地で行くような姿勢がIWCの一番の魅力と言っても過言ではないでしょう。
華美なデザインや装飾を好まないながらも、品質や性能の高さを求める方には、これほど合うブランドはないと思います。
